早く死んでレスラーになりたい。

早く死んで、(生まれ変わってプロ)レスラーになりたいということです。大丈夫です。

Gama

 一人で酒を飲んで、音楽を聴いていい気持ちになる。酔うと、聴覚がくぐもってくる。そして感動のハードルがぐいっと下がる。

 

 いやハードルが下がるという言い方は良くなかった。「センサーが鋭敏になる」。これが正しい。自分の感動のセンサーが鋭敏になるんだ。酒を飲むと心の感動のセンサーが鋭敏になる。

 

 そのセンサーは、受信のための枝葉はいくつになってもどれだけでも広げられるが、それが立つ基礎の土台は10代が終わるまでにほとんどと言っていいほど構築されてしまっている。10代、つまり「あの頃」に作り終わっている。だから、今、シラフの時の俺たちはあの頃だったらセンサーが反応していたはずのものを毎日とりこぼしているのかもしれない。少しずつ少しずつ。それは不幸だと思う。でも酒を飲むと心のセンサーが鋭敏になる。10代が終わるまでに構築された「あの頃」の俺のセンサーが、シンプルな形のやつが、できたてのときの姿で現れてズドンと心の中に直立する。

 

 酒を飲むと判断力は失われていく。だからいいこと言うのも悪口も大げさになるし、原付の運転もしてはいけなくなり、明日の予定を忘れる。当然。でもその代わり俺たちは「あの頃」を取り戻す。当たり前の事だ。「あの頃」、俺には判断力のかけらもなかったから。

 

 酒を飲めないというやつはどいつもこいつもいつだって地に足つけて現在現実の自分とだけ向き合ってて…それかそんな力を借りなくても自分の人生を自分でなんとか精算しながら頑張って、そんなやつが多く感じて、しかも酒を飲むなと言ってくるやつもいて、腹が立つ。「酒でも飲まなきゃやってられねえ」というのは真理だ。酒でも飲まなきゃやってられねえんだ。飲めるから飲む。酒を飲まないと忘れてしまいそうになるんだよ。センサーを。大事なものかどうかなんて知らないけど。酔うことをいつもたしなめてくるやつら。「あの頃」に戻った自分を酒の勢いだと言うやつら。死んでくれ。そんなわけないだろ。理屈もなにもないが、そんなわけないんだよ。ミネラルウォーターを飲んでいてくれ。

 

 先日、Gamaというバンドを見つけた。

 

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 30歳を目前に、酒を飲んでいるときに出会ったからこそ信じられるモノがある。酒を飲んでいるときに撃ち抜いてくれたモノはシラフに戻っても信じられる。なぜならそれは「あの頃」の俺が大好きなモノだということだから。そのはず、とかじゃなくて絶対にそうなんだ。シラフのときこそなにもかも誤魔化して生きてるんだから。だから酔いが覚めたら後悔するんだ、剥き出しにしてしまったことを。「あの頃」のセンサーを。

 

 別にこのEPが誤魔化しのない自分を剥き出しにしてくれたわけじゃない。このEPは新たに発見したようで、実はずっとそこにあったようにも思える。ピンクフロイドを、イエスを、ビートルズビーチボーイズを思い出して聞いた。好きに決まっていることばかりやられると、そりゃそうだろ、ズルい、とすら感じる。ストリップ劇場で照明をしていたとき、初めて聴く曲でも、このタイミングで絶対に一拍置いてこういう音が来るというのが直感的に分かる時があった。そんな瞬間に来る快感が何度もあって、きっと同じ教科書を読んでいるんだと嬉しくなる。

 

 Gamaのライブに行く。