早く死んでレスラーになりたい。

早く死んで、(生まれ変わってプロ)レスラーになりたいということです。大丈夫です。

シェイプ・オブ・ウォーターを観たよ

年に何十本、何百本と映画を見る人間ではないが、いい映画というものはそれなりに観てきたと思う。

 

俺の親父は、俺が物心ついた時から、よく映画を家のテレビで流していて、自分の好きな映画のビデオやDVDを買ってきたり、放送を録画したりしていた。とにかくおとなしい人で、画面を眺めてる親父に「これ面白いの?」と聞くと、「ぁぁ…」とかボソボソ答えて、どこのなにがどう面白いのかは全く教えてくれない。そういう人だから、俺にそれらを無理やり見せたりすることもなかったけど、成長するにつれて、親父が俺に見せたくてそういうものを揃えていることが段々とわかってきた。それを疎ましく思うこともあったが、普通の26歳の人間なみにはものを考えることができるようになったいま、そこに面白くない映画はただの一本もなかったと分かる。

 

ファンタジア、メリーポピンズ、七人の侍、天国と地獄、アマデウススターウォーズゴッドファーザー狼たちの午後カッコーの巣の上でセルピコシンドラーのリスト大脱走パピヨンガンジー

 

音楽だってそうだった。ビートルズストーンズツェッペリン、ボブディラン、デビットボウイ、ジャニスジョプリン、ディープパープル、ピンクフロイド

 

他に漫画や、SF小説や、俺の好きななにもかもは親父の好きなものだった。全てそこから始まって、自分はただ親父の示してくれた地点から広げ歩いていっただけだ。おかしな話だが、自信を持ってそう言える。俺の親父はマジ最高の人間だ。

 

だから俺は、自分の中で、いつ誰に聞かれても答えられる最高の映画がハッキリと3本あり、それらは全てむかし親父に教えてもらった映画だった。

 

…そして昨日、シェイプ・オブ・ウォーターが4本目に加わった。

 

もう全てはとても言い表せないけど、本当に素晴らしかった。親父の手を離れて映画を見るようになってから随分経つが、こんなに素晴らしい映画に初めて自分で出会えた。それがとてつもなく嬉しい。

 

 冒頭、イライザがバスに揺られながら窓の外を眺めているところからなぜか涙が出た。特になんでもないシーンなのに、自然と涙が出てくるというのは初めての経験で、いま思い返しても少し動揺してしまう。とにかく、あの画面の全てが切なくて、そこから最後まで感動が続いてゆく。あの、イライザと怪物が音楽をかけながら心を通わすシーンの美しさときたら…イライザが親友の画家を問い詰める時に見せる怒りの悲しさときたら…イライザの想いがとうとう大爆発していきなりとてつもない想像の中に突入するシーンの素晴らしさときたら…とにかく全てに心を揺さぶられてしまった。そして俺の隣に親父はいなかった。

 

 オール・タイム・ベストという言葉があるが、どんなにいい映画を観ても俺は自分の、そして親父の人生の3本には簡単に踏み込ませてこなかった。しかしこの映画は文句なしに我が純金のオスカー像を投げつけるにふさわしい。

 

あまりに感動したので、ほとんど初めて親父に連絡してこのことを伝えると、一言、「絶対見る」と、返ってきた。

 

初めて俺が親父に映画を教えることができた。

 

シェイプ・オブ・ウォーター、なにもかも最高に良かったよ。