早く死んでレスラーになりたい。

早く死んで、(生まれ変わってプロ)レスラーになりたいということです。大丈夫です。

Gama

 一人で酒を飲んで、音楽を聴いていい気持ちになる。酔うと、聴覚がくぐもってくる。そして感動のハードルがぐいっと下がる。

 

 いやハードルが下がるという言い方は良くなかった。「センサーが鋭敏になる」。これが正しい。自分の感動のセンサーが鋭敏になるんだ。酒を飲むと心の感動のセンサーが鋭敏になる。

 

 そのセンサーは、受信のための枝葉はいくつになってもどれだけでも広げられるが、それが立つ基礎の土台は10代が終わるまでにほとんどと言っていいほど構築されてしまっている。10代、つまり「あの頃」に作り終わっている。だから、今、シラフの時の俺たちはあの頃だったらセンサーが反応していたはずのものを毎日とりこぼしているのかもしれない。少しずつ少しずつ。それは不幸だと思う。でも酒を飲むと心のセンサーが鋭敏になる。10代が終わるまでに構築された「あの頃」の俺のセンサーが、シンプルな形のやつが、できたてのときの姿で現れてズドンと心の中に直立する。

 

 酒を飲むと判断力は失われていく。だからいいこと言うのも悪口も大げさになるし、原付の運転もしてはいけなくなり、明日の予定を忘れる。当然。でもその代わり俺たちは「あの頃」を取り戻す。当たり前の事だ。「あの頃」、俺には判断力のかけらもなかったから。

 

 酒を飲めないというやつはどいつもこいつもいつだって地に足つけて現在現実の自分とだけ向き合ってて…それかそんな力を借りなくても自分の人生を自分でなんとか精算しながら頑張って、そんなやつが多く感じて、しかも酒を飲むなと言ってくるやつもいて、腹が立つ。「酒でも飲まなきゃやってられねえ」というのは真理だ。酒でも飲まなきゃやってられねえんだ。飲めるから飲む。酒を飲まないと忘れてしまいそうになるんだよ。センサーを。大事なものかどうかなんて知らないけど。酔うことをいつもたしなめてくるやつら。「あの頃」に戻った自分を酒の勢いだと言うやつら。死んでくれ。そんなわけないだろ。理屈もなにもないが、そんなわけないんだよ。ミネラルウォーターを飲んでいてくれ。

 

 先日、Gamaというバンドを見つけた。

 

https://t.co/nSRrNvnrQ7?amp=1

 

 30歳を目前に、酒を飲んでいるときに出会ったからこそ信じられるモノがある。酒を飲んでいるときに撃ち抜いてくれたモノはシラフに戻っても信じられる。なぜならそれは「あの頃」の俺が大好きなモノだということだから。そのはず、とかじゃなくて絶対にそうなんだ。シラフのときこそなにもかも誤魔化して生きてるんだから。だから酔いが覚めたら後悔するんだ、剥き出しにしてしまったことを。「あの頃」のセンサーを。

 

 別にこのEPが誤魔化しのない自分を剥き出しにしてくれたわけじゃない。このEPは新たに発見したようで、実はずっとそこにあったようにも思える。ピンクフロイドを、イエスを、ビートルズビーチボーイズを思い出して聞いた。好きに決まっていることばかりやられると、そりゃそうだろ、ズルい、とすら感じる。ストリップ劇場で照明をしていたとき、初めて聴く曲でも、このタイミングで絶対に一拍置いてこういう音が来るというのが直感的に分かる時があった。そんな瞬間に来る快感が何度もあって、きっと同じ教科書を読んでいるんだと嬉しくなる。

 

 Gamaのライブに行く。

 

 

 

 

R-1

 1月14日のR-1グランプリ1回戦を通過して、1月26日の2回戦でクソスベって落ちました。

 

 去年12月の終わりにエントリーしてなんとなくネタ考えながらも一向に形にならず、前日に事務所の劇場に行ったら先輩のにたりひょん吉さんがいらっしゃったので考えてた設定をお話ししたら「面白いね」と言ってくださり、急に自信が出てきたので骨組みだけ組み立てて急造でネタ見せに出し、本来2分ネタにしなきゃいけないところがこの時点で1分9秒。「なにしててん!お前明日やろ!?」と言われながらも作家の方々に出してもらったボケ案を全部使って1回戦当日…そのボケが全部当たって通りました。順を逆に追っていくと分かるんですが、根本は全てにたりさんが面白いと言ってくれたおかげです。ありがとうございました。

 

 そこから2回戦までの期間、相方、同期、先輩、事務所の方々いろんな人にお世話になってネタを仕上げ、1月26日の2回戦の本当に直前に、ネタの雰囲気が大きく変わる自分で思いついた要素をぶち込んだ結果なにもかもダメになってバカクソ落ちました。普段やってもないピンネタに関して自分になんの自信があったのか、今思うと全く意味がわかりません。申し訳ないです。ちゃんと悔しい。

 

 まあ結果はそれとして、R-1に出てみて本当に良かったと思うのは、1回戦に出てから2回戦までの12日間ほんとに楽しかったということです。1回戦で自分が舞台に立ってた時の感じが強烈に残っているのですが、自分が考えたことが(色んな方がたくさん助けてくれた結果を演じていたとはいえ)、ウケて、ウケていることへの高揚感がリアルタイムで手の震えに変わって視界が狭くなり別の自分になるあの感じがホントに久々でした。それは率直に言えば、「やっぱり俺面白いんじゃん」という感覚です。以前はネタを書いていたのですが今組んでいるトリオではネタを一切書いていないので、この感じは、ウケるにしてもネタを書いた上でのことでないと味わえない、とにかく「久々だなこの感じ!」と強く思ったのです。芸歴6年目に賞レースの1回戦でこんなことを思うのは、毎年この大会に賭けに賭けているピン芸人の方々からすると本当にしょうもないレベルの低いことになるのは分かっているのですが…あとすいません、別に爆笑とったわけじゃないです。普通にウケました。それでもこうなるくらい自分の発想がウケるのが久々だったので。

 

 合格してから毎日劇場に通って2回戦用のネタを考えるのも楽しかったです。本業のピン芸人の方々は苦しさと緊張の中で今もズタズタなんでしょうが、俺はもう楽しさがぜんぜん勝ちました。つくづく思うのですが、SMAはびーちぶという常設の劇場があるのが本当に最高すぎる。たぶん吉本と松竹以外で唯一ですよね自前の劇場あるの。いまコロナでお客さんを入れることができない分、ソニーの芸人は常にびーちぶでネタ作ってます。コロナが明けたら(はよ明けろや)見にきてください。

 

 実感を伴なった上でようやく分かったこともあって、それは「ボケは訓練しないと思いつかない」ということです。よく言われることですが、実感として。コンビのネタを考えていた頃も、設定はいくらでも思いつくけどボケが思いつかずに持ち時間が埋まらないということばかりで、それは今思い返すと単純にそんなにネタ考えてなかったからだったということが改めて分かりました。究極やるかやらないかは別にしてもネタは常に考えてないと本当にダメですね。設定はインプットの蓄積でどうにでもなるけど、ボケはマジで習慣と訓練でした。他の出場者とはそこの差が莫大すぎて、考えてる時間に比べて新しいボケの思いつく回数がお話にならないレベルで少なかったんだと思います。ピンのボケ、マジで思いつかなかった…

 

 短い小さな祭りでしたが、学びが多かった。ピンネタというものがすごく好きになりました。トリオの活動はもちろんのこと、こっちも1年間本腰入れてやってみたい。来年も必ず出て、結果出します。ほんとにR-1グランプリ出てよかったです。面白みのない文章で申し訳ないし恥ずかしい。どうもすいません。

ジ・アンダーテイカーの引退に寄せて①

 2004年、中学に入りたての頃のこと。両親が家にケーブルテレビを導入した。それまでの我が家のテレビのチャンネルの数は一気に数倍に膨れ上がり、MTVやアニマックスやカートゥーンネットワークやFOXやムービープラス日本映画専門チャンネルを見ることができるようになった。今思うと革命的な出来事だった。外国の番組を家で見ることができたり、24時間アニメや映画をぶっ通しで放送するチャンネルがあるなんて知らなかったからだ。

 

 それからはとにかく家に帰ればケーブルテレビを見まくり、お笑いどころか地上波の番組もほとんど見てなかったと思う。バレット・フォー・マイ・バレンタインやマイケミカルロマンスのPV、ドラゴンボールパワーパフガールズ、デスパレードな妻たち、LOST、ベーリング海の一攫千金、七人の侍などなど、あの頃の我が家のテレビは12チャンネルの外で輝いていた。テレビっ子ではなかった自分が、初めてエンタメを意識して吸収し始めた時期だった。

 

 ある日、なんの気もなしにチャンネルをザッピングしていると、それまで意識したこともなかったスポーツのチャンネルの画面に目が止まった。

 

 そこには、見たこともないような大きなスタジアム型の会場に満員の客。一人一人思い思いの英語の言葉の書かれたボードを掲げ、口々になにか叫んだりして盛り上がっている。会場の中心には四角いリングが置かれ、真っ白なマットの四方に真っ青なロープが張られている。そのまた中心で、1人の大柄なアメリカ人がマイクを片手に大声で喋っている。異様だったのはそのアメリカ人の姿だ。スーツにテンガロンハットをかぶっているところまではいいが、全身にギプスをはめ、首にはコルセットを巻き、松葉杖をついている。喋っている言葉に字幕はついているが、なんのことを言っているのかは要領を得ない。どうやら観客になにかを強く訴えかけている。男の顔は悲しそうで、哀れだった。どうやらこの男の身になにか酷いことがあって、大怪我をしたらしい。

 

 リングがあることから、格闘技かなにかのイベントが行われていることはなんとなく想像がついた。プライドやK-1が全盛の時代に小学生だった自分は、生身の人間の暴力が嫌で全く格闘技に触れてこなかったので見るのをやめようかとも思ったが、しかしそれよりも、喋り続ける男の姿と声が哀れすぎて、なんだか目が離せなくなってきていた。どうやらギプスの男が喋り終え、ほっとした表情を浮かべたその時、

 

ゴオォォォォン…、

 

 重々しい鐘の音が鳴り響き、会場が暗転した。その瞬間、男の顔が恐怖に歪む。

 

 リングの向こう側、花道を挟んで大規模なセットが組まれた入場口から、巨大な男が現れた。真っ黒い革のコートに、真っ黒いグローブをはめ、被っているどこまでもつばの広いハットもまた黒。鐘の音と共に流れ始めた重々しい葬送行進曲に合わせ、ゆっっ…っっくりとリングへ向かって歩みを進める。顔は全くの無表情で、なんの感情も読み取れない。しかしなにか完全に恐ろしいことが起きていることは理解できる。その証拠に、ギプスの男はパニックを起こし、リングに近づいてくる黒ずくめの男から逃れようとして右往左往している。そのうちギプスの男はリングから転げ落ち、恐怖に叫びながら客席のフェンスを乗り越えて必死に逃げていった。黒ずくめの男は、誰もいなくなったリングに立ち、相変わらずなんの表情も浮かべずに、じっと逃げていくギプスの男を見つめている。

 

 どう考えてもギプスの男に怪我をさせたのはこの黒ずくめの男だった。ただ現れただけで相手を恐怖のどん底に陥れ、そしてそのままただ去っていく。更に異様に映ったのは満員の観客たちだ。この、相手の全身にギプスをはめさせるほどの大怪我をさせた黒ずくめの巨人に、みんな大声援を送っているのだ。逃げた男に更に暴力を振るうよう煽っているようにも見える。異常者の集まりにしか見えなかった。俺はこの黒ずくめの男と、ついでにアメリカ人全員が大嫌いになった。チャンネルを変え、見てはいけないものを見て落ち込んだ気分になりながら、格闘技ってのはやっぱり嫌な世界だと思ったのをはっきりと覚えている。重く暗い鐘の音だけ頭から離れない。

 

 それが、俺の人生初めての、プロレスと、過去・現在・未来において最大最高のプロレスラーである地獄の墓掘人、ジ・アンダーテイカーとの出会いだった。

 

 

https://youtu.be/Bwrov6d-M7E 

その時の映像。

 

赤・青

  今日原付に乗って走っていた帰り道、すごくぼーっとしながら運転してました。1日の終わりの帰り道の原付は、なんかゆるーいゾーンに入ることが多いというか、脳はぼーーーーっとしつつ、肉体的な反射のみで、信号の色、曲がり角、速度計をチェックしつつゆっくり行くことが多い。

 

  上石神井に住んでいるので、都心へと行き来する道は青梅街道か新青梅街道のどちらかを通って40分くらいかけて行くんですが、今日の帰りは新青梅街道で、またぼーっと運転してると途中にあるレンタルショップのゲオがある交差点の近くまで来ました。そのゲオの入り口に、

 

ポケットモンスター○○予約受付中!」

 

という、1文字ずつラミネートされた大きいシートで作られた宣伝文句があって、○○の部分以外のとこは黄色、○○の部分は赤、青の順番で一枚ずつ色の変わったシートで作られてました。そんでその○○の部分になんて書いてあるのかは遠くてわかんなかったんですけど。

 

  そのまま近づいて行ったら、通り過ぎる時にその○○は「新作」。つまり「ポケットモンスター新作予約受付中!」って書いてあったんですが、その「新作」のとこの色が一文字ずつ他と違うせいで、次のポケモンは「ポケットモンスター・新」と「ポケットモンスター・作」なんだな変だなって考えが脳に焼き付いて、要するに「ポケットモンスター金・銀」みたいにね、そんでなんていうか説明難しいんですけど、そんなわけないということがどこかでちゃんと分かってるのに、そう思い込もうとしてる自分になってしまって、気がついたらそんなわけないことが分かってる自分に対して自分で変な意地張って原付を路肩に停め、ラインで相方の堀内に「つぎのポケモンポケットモンスター・新とポケットモンスター・作だって」って送ろうとした瞬間に我に返ってちゃんと家に帰れました。

  実家を出てからも全く悪びれず月々の料金を親に払ってもらっていた俺は、一年ほど前に「いい加減自分で払え」という、今までのことを考えるととても寛大な、しかし同時にこの上なく冷酷な最後通告を渡された。俺は金を払うよりも、人と金の話をする方がめんどくさくて大嫌いなので、支払能力もないくせにテキトーにその通告を受理し、もちろん払えず、毎月実家に督促状が届いてLINEで叱られながら料金を振り込んでもらうという、金なしカス27歳4コマ漫画タイトル「携帯料金」クソオチ4コマ目限定無限ループをやっている。

 

  そしてとうとうというか、先週ついに携帯を止められた。最近何を思ったか飛び飛びで何ヶ月か自分で払った月があったのが逆にまずかったらしく、どっかの月を親と二重に振り込んでいて、先月の携帯料金を支払えていないらしい。恐ろしいことです。携帯が、使えない?

 

  リアルに1日13時間くらい携帯を触り、触っていない残りの11時間は携帯から流れる音楽やラジオにただ耳を犯させている俺には活無しの死活問題である。失われた4G回線。レベルパキスタンWi-Fi難民と化した俺は、息も絶え絶えに家のWi-Fiで思いつく限りのネットフリックスとラジオクラウドとアップルミュージックをダウンロードし、果てはiBooksで無料の中島敦全集をぶち込んで懐かしすぎる山月記を読もうとする始末。とにかく金がない。給料日まで払えん。でも金の話はめんどくさいから、親に頼んだりもしたくない。

 

  しかし本当の恐怖はここからだった。ネットには繋がらなくても、通話の機能だけは生きていたので、緊急用に相方と同居人とバイト先に電話番号を送りつけ、海原からうち上げられたクジラのごとく現実に横たわるiPhoneとともに外に出た俺が直面したのは、我が家で仕込みに仕込みまくったオフラインでもつかえるコンテンツに一切手をつけず、更新されないツイッターをただ触る狂気の自分の姿であった。遠くでドン引きした中島敦が虎に変わり月に吼える。俺は機動戦士ガンダム一年戦争の序盤で自らの半数を滅ぼした人類ばりに自分の行いに恐怖した。俺はツイ廃だった。ろくにつぶやきもしないくせに。

 

  しかしSNSデトックスとはよく言ったもので、1日我慢すると開いた瞳孔が、2日目で唾液の過剰生産が落ち着き、3日目にはなんとか手の震えを抑えて落ち着いてSNSの無い社会生活を送ることができるようになった。注射痕の薄くなった手で人に戻った中島敦の語りに集中する。Wi-Fiに繋がっている時は心置きなく携帯を稼働させられるのも大きい。薬物と違っていきなり全てを断って激しい禁断症状に苦しむ必要はない。緩やかな治療と健康なコミュニケーション。ソフトバンクダルク。あの犬の白はコカインの白。

 

  こうなってくるとやはり困るのはLINEで連絡が取れないこと。夕方から深夜日付が変わるまでバイトをしている俺はその間LINEを見ることができない。

 

 

ここまで!!!!ここまででーーーーーーす!!!!こっから全然書けない!!!!書きたいことはあったんですけど、ぱったりここで止まったのでここまでです!!!!いまWi-Fi通ってる一軒め酒場で1人で書いてます!!!!あざした!!!!おやすみなさい!!!!

 

  

おばあさん

  喫茶店でネタ考えてたら、おばあさんに話しかけられた。顔はしわしわで、目がもう真っ黒のビーズみたいのがふたつぶになってるおばあさん。小さい。全体としてすごく小さい。長く生きてるからこそたどり着くタイプの小ささ。紫のこれまた小さい帽子を小綺麗にちょこんとかぶっていて、にこにこしながら丁寧に話しかけてきた。

 

  聞くと、持ってる携帯電話の蓋についてる小さいランプが点滅してて、消し方を教えてほしいとのことだった。見ると、たしかに何秒かおきに青いランプがチカ、チカと光っている。久しぶりに見るガラケーだった。おおー老人のケータイだ、と頭の中でつぶやきながら「あ、多分メールが届いてるんだと思いますよー」と言ってパカっと開き、懐かしいボタンの並びを眺める。封筒のマークが記してあるボタンを押し、メールの画面に切り替える。1番上のメール、タイトルが「ソフトバンクからの…」の表記しきれてない文字列の横にNEW‼︎と表示されてるのを見て、「これですねー」と知らせながらメールを開くと、先月料金を引き落としできなかった利用者に対して今月の料金引き落としの期日を知らせる内容だった。

 

  もう分からないから解約しようかと思ってるんです…と話しかけてくるのを聞き流しつつ、これこれこういうことだって、と、愛想よく丁寧に会話しようと思ったらなぜか明るめのタメ口になってしまっている自分を感じながら説明する。他人のメールを覗くのはどんな内容だろうと少し緊張する。先月料金を引き落としできなかったのを見ず知らずの人間に知られるのは恥ずかしいだろうなー、と思いながら少し申し訳なくなる。説明したあとにケータイを一旦閉じ、ランプの点滅が消えたのを確認する。引き落としってどうしたらいいんでしょう…と言われ、ソフトバンクショップに行くのをお勧めした。今いる喫茶店の目の前にソフトバンクショップはある。たぶん今日中に行くだろう。

 

  丁寧にお礼を言われ、いえいえと返し、改めて店内を見渡すとたしかに若い人は俺しかいない。そういえばこの喫茶店で俺より若い人は見たことがない。またネタを考えに戻る。しばらくして、スマホのネタ帳に目を落としていると、また同じおばあさんが話しかけてきた。

 

  「先ほどはありがとうございました。あの、お顔を覚えさせていただきましたので、今度お見かけいたしましたら、コーヒーでもご馳走させていただきます。」

 

  いえそんな、とんでもないです!解決できたみたいで良かったですよ、と返すと、深く頭を下げておばあさんは出ていった。この喫茶店は頻繁に来るし、ホントにご馳走してもらえるかもなと思いながら見送る。

 

  俺はお笑いの台本は全てスマホのメモに書いている。つまり自分の仕事、飯のタネになるものを全てスマホで作り出しているということで、完全になくてはならないものだ。その他にも、人との連絡、スケジュール管理、楽しいこと、見たいもの聞きたいもの食べたいもの、全てスマホを触ることがどこかに深く関わっている。みんなもそうだろう。だからめちゃくちゃ使いこなしている。

 

  かたやおばあさんは未だにガラケーのランプの点滅の原因がわからない。メールの見方も分からない。電話が来たらとるくらいのことはできるだろうが、自分からかけたりはできないだろう。機能は全て説明されてるだろうが、わからないまま契約したのだろう。今日ソフトバンクショップに行ったあともきっとよくわからないままだろう。ガラケーの時代からすでに取り残されていて、スマホなんか触っていいよと言われてもどこを触っていいかわからないくらいわからないだろう。

 

  だけどおばあさんは店を出る時、親切にしてくれた人の顔を覚えて、次に会った時にコーヒーをおごることはできる。おそらくできる。俺はどうだろうか。こりゃ一体なんだろうか。

 

  未来になったら、俺もあのおばあさんになっている。全く分からない未来の機械の、その前のバージョンの機械を持ってて、その使い方がわからず、喫茶店で少し離れた席に座っている若者に話しかけてどうすればいいか聞く。おそらく口で話しかけることは時代遅れになってるだろう。歩いて距離を近づくことすら時代遅れになってるだろう。自分の足の筋肉を使って立ち上がった時点で若者はちょっと驚いてこっちを見てるかもしれない。

 

  使い方をきいて、教えてもらう。未来でも親切は親切だから、親切に教えてくれるだろう。お礼を言って、席に戻り、店を出る時に立ち上がって、二回も足で立ち上がったでコイツ、久しぶりに直立二回も見たわ、と驚かれながらお礼を言って、顔を覚えたから今度会ったらコーヒー奢りますと伝えて、店を出る。

 

  若者は「覚えるって、まだ脳みそ使ってて老人は大変だなー」と思いながらネタ帳に理科室の天秤がカラーコーンの重さを測ってる写真を貼り、「おいっ!」と声を吹き込む。未来のお笑いは画像になっていて、俺はソフトバンクショップに行くんです。

 

  その時の俺、もう80年くらいソフトバンク使い続けてる。

  

西鮫とサメゾンビ

  アクセス解析ってのを出来るんですけど、前回みたいなしょーもない記事でもツイッターでつぶやきゃ60人くらいは見てくれてて、そっからまた1人とか2人になって、3日後くらいに急に27とかになる。つまりまた更新してねーかなーって覗きに来てくれた人が見てくれた人のうち何割かいるわけで、この一連の流れをどんどん回転させていくことで読者というものを増やしていくことができるんですねー。いや、こんなことはわかってるんですけども、もちろんみなさんもね、わかってるんでしょうけども中々手が進まない。なんでかって言ったらどっか恥ずかしいからって一言に尽きますね。おれは笑えないタイプの、生きることにおいて何一つ役に立たないタイプの恥ずかしがり屋なので。プライドが高いからゆえの最悪の恥ずかしがり屋です。この1文だけで同じように分かる人いるよね。最悪だよなマジで。プライド高い人みんなでオフ会やればみんなほんとの心を吐き出せてハッピーになるんじゃないかな。

 

  でもほんとに、もう俺は今年28になるんですけど、ここまで鳴かず飛ばず、ていうか鳥にすんなら無精卵のまま産まれもしない世間に食われる待ちのシンプル卵やらせてもらってると、こっからどうにかしようと思ったら表現の質はともかくその手段を一つでも多く持つことにしないといけない気はしてて、ネタと一緒にブログも人並みに更新していきたいし、1人喋りでも誰かとでもネットラジオやりたいみたいのも考えてるし、なんなら最近YouTubeで見かける中国輸入とやらなんて手を出してしまおうかってもう終わりも終わり、つまり食えるようになってお笑い趣味にしちまった方がのびのびやれて芽がでるんじゃないかってふてえ考えがよぎった頭を慌ててかち割るってことまでしてるのよね。輸入しないよ大丈夫。そんな俺がやっと恥ずかしげなく本気で打ち込めるやり方の一つっていうのが西鮫ってライブなんですよ。

 

  西鮫は俺がアマチュアの学生芸人の頃から仲良くしてもらってるサメゾンビってコンビと2組で毎月やるライブで、いまのところ地球終わるまでやろうと思ってるんですけど、まぁお笑いをライブとしてよく見に来ていただいてるお客さんには珍しくもない、新ネタ4本ずつやってあとなんか企画やってっていうライブです。でも、これが他のそういうライブと何が決定的に違うかっていうと、スペイン・ポルノ・プロレスが、ていうかまぁ俺がこれから売れるとしたら絶対にこのライブがあったからということになるんですね。そのきっかけのライブなので。人生から切り取ったライブなんですよ。読んでる人には関係ないですかね。それもわかるわよあたし。けどそうなのだからしょうがないじゃない。あぁ、前回はたくさんのお客様に来ていただいて、本当にありがとうございました。一人一人本当に大好きですよ。愛してるんです。本当に嬉しかった。これから来る人もですよ。

 

    にしてもサメゾンビの2人、滝田とたくろーさんマジで好きですわー。最高ですわー。俺はほんとうに大好きなんです。滝田はもう、一緒に遊んで一緒にネタやって一緒に先輩に怒られたりもして、まぁそれも愛のある怒りだったんだけど、ていうか滝田しか怒られてなかったけど、まぁいつ見ても面白いしかっこいいし、俺がお笑いやれてなかった期間も俺の同居人ごと心配して連絡くれて遊びに来てくれた超いいやつ。こいつどんなライブのどんな場面でもウケるスベる関係なく全然ブレてない感じなの凄くないですか?見たことある人わかりますよね。打ち上げまでそんな感じですからね。そんでたくろーさんはさー、ていうかとりさわさんはやっっっさしいし生意気な口きいてもいいし、いいことはないけど、あと真面目ででもクソ面白い最高の先輩。すぐ一緒に飲んでくれるし。たくろーさんはギャラ飲みイケる。西鮫はたくろーさんが背中押してくれて始まったんです。いまのスペイン・ポルノ・プロレスとツーマンをしかも定期的にやろうとしてくれるってキチガイだよ。この2人はお笑いどうこうより人間としての界隈の評価が低すぎる。低すぎるんだよ。俺もうこの2人の友達の作家の福西さんごと好きなんですよ。まだ書き足りないのはわかってるんだけどもうめんどくせえわ。やめ。

 

  サメゾンビへの愛で錯乱してしまっているんですけど、その西鮫の2回目が3月8日にありますので見に来てください。スペイン・ポルノ・プロレスはですね、ちょっと今年はこれでいけるとこまでって漫才の形が見つかりかけてるんで、それをどんどん試していってるとこです。まだ結果は出ないけどそんな状況今までとなにも変わってないので知ったこっちゃないですよね。見かけたら、「あぁこれか」って思ってください。あとコントとかも多分しますし、とにかく満足度100パーセントのライブにしますので、精度ぐんぐんに上げていきますので、本当によろしくお願いします。それで好きになってくれたら、我々やサメゾンビの他のライブもちょっと声かけて見に行ってやってください。ドラマにしましょうよ。ここで作ったネタが他の場所で羽ばたいてるところを楽しむのもまた良いではないですか。ね。

 

  

 

  変なこと書いてるマジで。初めてとりさわさんに怒られるかもしれない。あの人おれが見に行ったキングオブコント一回戦敗退した日に長文のダメ出し酔った勢いで送ったあとも全く怒ってなかったけど。こんど会ったらケツ蹴ってみますわ。

 

 

 

【西鮫2】

3月8日 中野440スタジオ

19:15分開場、19:30開演

1,000円

出演者:サメゾンビ、スペイン・ポルノ・プロレス

Twitter:@Nishisame

取り置きは出演者まで。